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富士酒造とは

富士酒造の哲学
すべてのお酒に人の手でひと手間を

富士酒造は、出雲平野の中心部に構える小さな酒蔵です。初代・今岡正一が1939年に創業し、出雲の地で富士山のように愛される日本一の酒が造りたいという想いをこめて「出雲富士」と命名しました。

2004年、現在の杜氏が蔵に戻り最初に取り組んだのは、出雲市内の酒米農家探しでした。農家のみなさんと一緒に、出雲の地で育った酒米で、安心して飲める出雲富士を造りたかったのです。

そこでご縁をいただいたのが、出雲市南部の山間地にある野尻営農組合でした。最初は2軒の農家さんと、農薬や化学肥料を極力抑えたエコ農法で、島根の酒米・佐香錦を栽培しました。その後、年々参加してくださる農家さんが増え、2018年には出雲富士の酒米専門の農業法人になりました。

兵庫県へ先進地視察に行ったり、農業試験場の先生に圃場視察に来ていただいたり、精米専門家に酒米の割れについて授業をしていただいたり、富士酒造は農家さんと一緒に持続可能な酒米造りに取り組んでいます。これからも、野尻の土地を安全に守り、人と自然が共存する酒米造りを続けていきたいと思っています。

出雲富士には「出雲を醸し、富士を志す」という理念が根本にあります。ですから、やはり出雲の自然の空気の中で酒造りがしたいと思い、できるだけ人の手で、自然の環境下で酒造りをしています。

今でも木槽搾り(きぶねしぼり)でお酒を搾っている理由もそこにあります。手作業の木槽搾りは、全自動の搾り機よりも蔵人が多く必要です。全自動の搾り機を導入しようかと検討したこともありましたが、この伝統の木槽と向き合っているうちに、ここまで大切に育てた醪を機械で搾ると、何か物足りなくなるのではと感じるようになりました。

木槽搾りは、丁寧に醸した醪を少しずつ酒袋に入れ、蔵人たちの手作業で一袋ずつ大切に重ね、袋の隅からお酒が一滴、また一滴と、ゆっくりと時間をかけて搾られていきます。このように自然落下の雫でできたお酒は、ストレスが少なく素直な調和のとれたお酒になります。出雲富士が目指す、調和の先にある唯一無二の素直な味わいの酒は、木槽搾りでないと醸せないと気づいたのです。

出雲富士は、お米をお酒に醸す過程で必ず蔵人の手の間を通ります。大量生産はできなくても、このように人間の五感を駆使したお酒造りを続けているのは、「美味しい」を「すごく美味しい」に変えるのは、言葉や科学では証明できない、そんなひと手間にあるような気がするからです。

もちろん、新たな技術を開発し取り入れることもありますが、すべてはもっと美味しいお酒をつくるため、そして美味しい以上の喜びと感動をお届けするため。残したい伝統を継承しながら、日々進化を続けています。

1

蒸し

酒米が最も変化する工程の一つが「蒸し」です。昔から外硬内軟の蒸米が理想とされてきました。出雲富士には木製の四角の蒸篭型甑を使用しています。優しい蒸気で酒米一粒一粒に魂を入れていきます。香りとさばけが良く、外硬内軟の極上の蒸米に仕上がります。

2

放冷

麹室に引き込む前に蒸したての酒米と近くで会話する事が大切です。今日の蒸上がりはどうか?硬くないか?柔らかくないか?香りは?味わいは?さばけはどうか?自然の空気の中でゆっくりと冷ましながら、素手で混ぜながら、全身を通して、蒸米と会話します。

3

製麹

極上の蒸米一粒一粒に、麹菌が健全に育つように愛情を込めて麹を造ります。麹菌とお米が出す、わずかなサインを見逃さないよう、五感を研ぎ澄ましながら育てます。麹菌が成長する時に生じるエネルギーを循環させた、昔ながらの手づくりの製麹方法を極め、伝承すべく日々麹と向き合っています。

4

上槽

大切に育てた醪を、富士酒造に代々伝わる昔ながらの木槽で優しくゆっくりと搾ります。全ての出雲富士は蔵人たちの手の中を通ります。この木槽搾りは非常に労力がかかり大変ではありますが、その分、生まれてくる出雲富士たちはどれも愛情に満ちた、朗らかで優しい調和のとれた表情をしています。

出雲とお酒
神様と人のあいだにはいつもお酒がある

出雲は日本酒発祥の地

日本最古の歴史書『古事記』には、出雲を舞台にした神話が数多く登場します。八つの頭と八つの尻尾をもつヤマタノオロチの神話では、スサノオノミコトはヤマタノオロチにお酒を飲ませ、酔っ払わせてから退治したと伝えられています。

出雲市内を今も流れる斐伊川には、上流から下流に至る流域一帯に、ヤマタノオロチの神話に伴う伝承地が50箇所以上もあります。そのことから、多くの支流が集まり流れている「斐伊川=ヤマタノオロチ」だという説があります。

『日本略史 素戔嗚尊』作者:月岡芳年/明治20年作
アマテラスオオミカミの弟、スサノオノミコトが高天原から追放されて出雲国、簸の川の上流でヤマタノオロチを退治する場面。

神々も酒宴をおこなう神在祭

全国的に旧暦十月は神無月(かんなづき)といいますが、出雲では神在月(かみありづき)と呼ばれます。日本全国の八百万の神々が出雲に集まり、国家安泰、五穀豊穣、縁結びなどの神議(かみはかり)をされるからです。 出雲大社や佐太神社など、複数の出雲の神社に滞在し、神議を終えた八百万神は、直会(なおらい)と呼ばれる酒宴をおこないます。そして、直会の宴の翌朝、明年の再会を期して八百万神はそれぞれの国に帰ります。

『出雲大社之絵図』絵図提供:古代出雲歴史博物館

出雲とお酒の深いつながり

また、約1300年前に編纂された『出雲国風土記』には「この地に神々が集まって酒造りを行い、180日にわたり酒宴を開いた」という記述があります。その中で、酒造りの神「クスノカミ」を祀り、日本酒発祥の地と伝えられているのが、出雲市にある佐香神社(さかじんじゃ)です。佐香神社の「さか(佐香)」が「さけ(酒)」の語源になったという一説もあります。佐香神社と出雲大社は酒造免許を受けている神社でもあります。

出雲市にある佐香神社(さかじんじゃ)。酒造りの神「クスノカミ」を祀り、日本酒発祥の地と伝えられている。

このように、出雲の地と神様とお酒には長い歴史と深いつながりがあります。出雲では、お酒はただ飲まれるだけでなく、神社に奉納されたり、御神前にお供えされたり、結婚式やお葬式などの祭事にも使われます。お酒をつくる私たちが行けないような、神様に近いところにもお酒は行くものです。

神様への奉納でも、特別な日のお祝いでも、いつもの晩酌でも、どんな時も最高のお酒であるように、富士酒造ではすべての出雲富士に対し手間ひまを変えず、責任を持って、胸を張ってお届けします。